7 ランダムさが生み出すパターン
【論文タイトル】Stochastic pulsing of gene expression enables the generation of spatial patterns in Bacillus subtilis biofilms
【著者】Nadezhdin et. al.
【年】February 2020
【ジャーナル】Nature Communications
今回の論文はむずかしくて、うまくまとめるのに2日かかってしまいました。
でも、非常におもしろいです!読み甲斐ばつぐんです!
さっそく見ていきましょう。
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本論文は、
遺伝子発現の「ランダム」な制御 (stochastic pulsing) が、
多細胞システムにおいて必要な「パターン」を生み出す
ということを明らかにしました。
単細胞の細菌がなにかの表面上で増殖した際、層状のバイオフィルムを形成します。
バイオフィルムを形成することで、細菌は主に環境ストレスから身を守ります。
この多細胞から成るバイオフィルムは、ときに多細胞生物のように振る舞います。
たとえば、バイオフィルムのなかには生命活動を行う細胞以外にも、胞子化した細胞が存在します。
この胞子は、バイオフィルムの先端部に集まることが多く、
多細胞集団の中でどのように発現調節がなされているのかが疑問でした。
一般的なストレス応答性シグマ因子であるシグマBは細胞のストレスに応答する一方で、胞子の形成を抑制する働きがあります。
著者らは、「バイオフィルム内で、細胞分化の調節がどのようになされているのか」を調査するために、シグマBの発現変化をタイムラプス顕微鏡で観察しました。
その結果、シグマBは時間ごとにランダムに発現していることが明らかとなりました。
ランダムな遺伝子の発現によって、バイオフィルムのなかで胞子形成とストレス応答型の2つの異なる形質を示す細胞がパターン分化したそうです。
次に、このパターンを調査するために、シグマBのランダムな発現を、数理モデルをつくってシミュレーションしました。
すると、ランダムなシグマBの発現はバイオフィルムの先端で胞子形成を活性化させることが分かりました。
また、シグマBの発現を上昇させると、胞子形成のピークがバイオフィルムの先端部から中心部に遷移しました。
実際に、シグマBの発現が上昇するよう変異させた株では、胞子形成がバイオフィルムの中心部に移動しました。
これらの結果により、遺伝子のランダムな発現はバイオフィルム内におけるパターン化に重要であることが明らかとなりました。
ランダムさが、パターンを生み出すなんておもしろいですね!
気になったので調べてみると、
本論文はケンブリッジ大学による研究で、共同研究先は Microsoft Research だそうです。
うーん、さすがです。
【引用】