9 「赤の女王」様の動態による海洋ウイルスの長期安定

【著者】Ignacio-Espinoza, Ahlgren & Fuhrman

【年】December 2019

【ジャーナル】Nature Microbiology

論文のタイトルに惹かれて読んでしまいました。

海洋ウイルスの動態が「赤の女王」様に変化するというのです。

一体どういうことでしょうか?

「赤の女王」仮説とは、進化に関する仮説の一つです。

ルイス・キャロルの小説『鏡の国のアリス』に登場する「赤の女王」が「その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない」といったそうです。

進化に置き換えて言うと、

「生物が群集の中で生存し続けるためには、進化適応し続けなければならない」

ということですね。

微生物に感染するウイルスは、微生物の進化から物質循環に関連しており、微生物コミュニティに大きく影響します。

しかし、ウイルス動態などの評価はまだ十分に行われているとは言えない状況だそうです。

そこで著者らは、海洋における長期的なウイルス動態を明らかにするために、

サンペドロ海洋表層 (0.02-0.2 µm) のサンプルを5年間にわたり採取し、メタゲノム解析を行いました。

その結果、アセンブルされた19,907コンティグのうち、97%がすべてのサンプルに共通していました。

また、最も類似的なサンプルは12か月ごとに現れ、コミュニティに季節的な周期性があることも示唆されました。

以上より、海洋表層のウイルスコミュニティは長期的に安定したものであることが分かりました。

一方で、ウイルスのシーケンス結果によると、single-nucleotide polymorphisms (SNPs) には多様性があり、

一定の値で小さな群集が現れて数か月ごとの減少と上昇を繰り返していることが分かりました。

そして、この現象が「赤の女王」動態と似ているのだそうです。

既知の微生物宿主とウイルスの相互作用から明らかになっていますが、

宿主とウイルスは互いに対する感染と感染防御システムをいたちごっこのように進化させています。

そのため、群集内における微生物に対する選択圧は、

日々変動していると考えられています。

群集内において小さな群集や変異体が増えたり減ったりしていることは、この仮説によって説明が可能です。

小さな個体群の永続的な変動がウイルス-宿主の共存を長期的に可能にしているのですね。

【引用】

Long-term stability and Red Queen-like strain dynamics in marine viruses | Nature Microbiology

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA