14 適応的実験室進化
今回の論文
Yinan Wu, Aysha Jameel, Xin-Hui Xing, Chong Zhang,
Advanced strategies and tools to facilitate and streamline microbial adaptive laboratory evolution,
Trends in Biotechnology,
Volume 40, Issue 1,
2022,
実験室進化の最新レビューを今日は読んでいこうと思います!
バクテリアの分野にいるからか非常によく耳にするadaptive laboratory evolution (ALE) の言葉
他分野だと「一体なんだこれは?」と思うでしょう。
一世代が短くてさまざまな代謝物質が産業応用されている微生物の分野だからこそ発達した手法かと思います。
ズバリ適応的実験室進化とは、「実験室で生物を進化させることで、生物を人が理想とする表現型にする手法」です。
適応的実験室進化(ALE)の目的
適応的実験室進化の利用目的は大きく4つあります。
- ストレスに対する耐性をつける
- 表現型の強化
- 進化の仕組み研究
- 遺伝子型-表現型マッピング
1「ストレスに対する耐性をつける」ではエタノール等や酸に対する耐性をつけたり薬剤耐性にしたりする例が知られています。
2「表現型の強化」は微生物の代謝物をより多く・早く生産させる取り組みが主に産業目的で行われていますね
3「進化の仕組みの研究」では実際に実験室で進化を再現することでどのように生物が進化してきたか研究するそうです
4「遺伝子型-表現型マッピング」はどの遺伝子がどの表現型に関与しているのか解析するたことですね。ALEを利用して一塩基多型等の遺伝子変異が入った大量の微生物プールを作ります
そのほかにも、本論文でも引用されていましたが、以前ブログで紹介したCellの論文のように導入した外来遺伝子が機能するようになじませる使い方もあると思います。
ALEのメリット
遺伝子組み換えではなくALEを行うメリットとしては、
- 遺伝子組み換えに必要なツール(例えばベクター構築に必要な試薬や遺伝子導入機械)が必要ない
- 遺伝子組み換えにかかるかなりの時間を削減できる
- 遺伝子組み換え体を扱うわけではないので法的なレギュレーションが緩い?
- (進化学的には)大量の遺伝子プールを作ることができる
といった点が挙げられます。
ALEの方法
実験室進化のやり方はいろいろと工夫されているようなのですが
代表的なのは単純に何度も何度も培養を続けることみたいです。
産業応用を目指しているラボや企業だと完全にオートメーション化していて
ひたすら機械に96ウェルで菌を培養させて、めぼしい表現型が出てきたらピックアップしているみたいです。
ある特定の代謝物質の生産量を上げたいとなれば、邪魔になっている代謝系の反応(例えば酵素一つ)をノックアウトして目標とする代謝をALEで活発化させるようです
複数菌種を同時に培養して特定の物質生産を上げようという試みもあるようです
他と比べると結構こちらは難しいみたいですね
さいごに
適応的実験室進化に関してはかなりたくさんの論文が出ていて、凡人には想像できないようなアプローチで微生物の表現型を変化させる手法も開発されています
微生物学者のロマンや工夫を感じることが出来る論文がたくさんあるので、これからもっとたくさんALEについての論文を読んでいきたいと思います😁