16 冬眠中のリスは腸内細菌で窒素を再吸収する!?
今回は腸内細菌がリスの越冬を助けていたというとっても興味深い論文を読みます!
【論文タイトル】Nitrogen recycling via gut symbionts increases in ground squirrels over the hibernation season
【著者】Regan et. al.
【年】January 2022
【ジャーナル】Science
絶食しても衰えないリスの筋肉
冬眠は、動物にとって食物の少ない季節を生き延びるための重要なシステムです
冬眠中はほかの季節と比較して必要なエネルギーが1%ほどに抑えられると言われています
必要なエネルギーは少なくなる一方で、冬眠中の絶食期間は窒素源が枯渇するため生命維持に必須なタンパク質の供給ができないと予想されていました
しかし実際には、冬眠中のリスの筋肉量やその機能は衰えていないというデータが出ています
では、リスはいったいどのようにして筋肉維持に必要な窒素を、冬眠中に獲得しているのでしょうか?
冬眠中におけるリスの腸内細菌のはたらき
Reaganらは、腸内細菌がリスで排出された尿素を分解することで、腸内細菌自らN源を獲得すると同時に宿主であるリスにもNを供給していることを発見しました。
冬は腸内への尿素輸送が活発になる
Reaganらはまず、血漿中の①尿素濃度②UT-B(腸内への尿素トランスポーター)量を夏と冬で比較しました。その結果、①尿素濃度は夏と比較して冬に3分の1程度に下がる一方で、②UT-Bは冬に約2倍に上昇していることが明らかとなりました。この結果は、冬になると腸内に尿素を輸送する機能が強くなることを示唆しています。
尿素は腸内細菌によって分解され、リスが生合成に用いる
著者は次にC、Nの安定同位体でラベリングした尿素(13C-尿素、15N-尿素)を用いて、①腸内細菌あり群②腸内細菌なし群(抗菌剤処理)でC、Nの代謝フラックスを解析しました。尿素が何に代謝されるのか見ようというわけです。
その結果、腸内細菌あり群ではなし群と比較して、呼気中の13C の割合が著しく高いことが判明しました!この結果は、腸内細菌が尿素を分解していることを強く示唆しています。
さらにメタゲノム解析の結果、冬には尿素分解に関わる酵素をコードするゲノム量が増えることが明らかになりました。どのような尿素分解細菌が増えるかというと、夏にはBacteroides、Lactobacillus、Alistipesの順に存在量が多い一方で、冬にはAlistipes、Streptomyces、Bacteroidesの存在量が多くなるそうです。(論文本文にはTOP10まで載ってました)
さらに重要なことに、骨格筋中の15Nタンパク質の割合が冬には腸内細菌あり群で有意に増加したという結果が得られており、腸内細菌が分解した尿素が実際にリスの筋肉維持に役立てられていることが示されました
所感
キャッチーで分かりやすい論文ですね~~
呼気で13Cが増えただけだとリスの生合成に役立ったとはいうには足りない気がしましたが、
筋肉中で15Nが増えたとなると文句は言えないですね。
美しい実験系です。
腸内細菌の役割はいろいろ研究されていますが、宿主の冬眠中には宿主の機能を補助しているのはおもしろいですね。
ヒトには冬眠はないですが、腸内細菌との欠かせない共生があるのでしょうか。
今後明らかになっていくと、より健康寿命の長い人類を実現できるでしょうかね。