19 地域や年齢によるヒト腸内細菌の違い【マイルストーン論文②】
前回に引き続き、今回も腸内細菌の分野で「マイルストーン」と称されている論文*を読んでみたいと思います!
*Nature Milestonesの記事(https://media.nature.com/original/magazine-assets/d42859-019-00055-7/d42859-019-00055-7.pdf)を参考
今回はヒトの腸内細菌が年齢、地域やほかの家族とどのくらい違うのか調べた論文です。
今回の論文
【論文タイトル】Human gut microbiome viewed across age and geography
【著者】Yatsunenko et al.
【年】2012
【ジャーナル】Nature
【リンク】Human gut microbiome viewed across age and geography | Nature
まずYatsunenkoらは、とんでもない量の糞便を回収することから研究をスタートしました。
アフリカのマラウイ共和国で115人分、南アメリカのベネズエラから100人分、アメリカから316人分の合計531人分です。(この時点ですごすぎるwwwってなってます)
この糞便を16SrRNAアンプリコンシーケンスに供して、地域や年齢、家族との腸内細菌叢の違いを調べていくわけです。
3歳までに腸内細菌は完成する
まず、年齢の違いにより腸内細菌叢の変化を調べました。その結果、マラウイ、ベネズエラ、アメリカいずれの地域においても腸内細菌叢の大きな変化は3歳でとまり、3歳ごろに大人と同様の腸内細菌叢となることが明らかとなりました。
だいたい、2~3歳まで腸内細菌の種類が増え続けて、3歳ごろには腸内細菌叢が完成するというのはどのヒトでも共通していそうですね。
腸内細菌は食生活で大きく変わる
続いて、マラウイ、ベネズエラ、アメリカの3地域で腸内細菌叢を比較しました。その結果、マラウイとベネズエラが比較的近い腸内細菌叢を有し、アメリカの腸内細菌叢がほかの二つと異なることが明らかとなりました。
さらに、腸内細菌叢でみられるOTU (operational taxonomy unit)の数を比較した結果、ベネズエラ、マラウイ、アメリカの順に多いことが明らかとなりました。これは、腸内細菌の多様性がベネズエラで最も高いことを示しています。
また、腸内細菌の機能を解析した結果、これまたベネズエラとマラウイが近く、アメリカだけ異なることが判明しました。
アメリカではタンパク質が豊富な食事である一方、ベネズエラとマラウイではとうもろこしやキャッサバが中心の食事であるためこのような差が生じたと著者らは考察しています。
実際に、アメリカ人の腸内細菌にはアミノ酸分解酵素やビタミンの合成に関わる遺伝子が多く存在した一方で、ベネズエラとマラウイではアミラーゼ分解酵素が高発現していました。
食事がいかに腸内細菌叢を変化させるか示唆していますね。
家族の腸内細菌は似ている
最後に、Yatsunenkoらは兄弟や母親とどの程度腸内細菌が似ているか調べました。
その結果、双子の腸内細菌叢は一卵性であろうと二卵性であろうと類似していることを明らかにしました。
そしてやはり、母親父親兄弟、一緒に住んでいる人は腸内細菌叢が近いようです。
おもしろいのは、地域ごとに腸内細菌のメンバーが大きく異なるにもかかわらず、腸内細菌叢が3歳で定着することや家族間での腸内細菌の類似度高いといった特徴はすべての地域共通で見られたことですね。
所感
前回紹介した論文(18 マウスでヒトの腸内細菌を知る【マイルストーン論文①】 – まじめちゃんブログ (majime.info))と同じく、アメリカ ワシントン大学のジェフリー・ゴードン(Jeffery Gordon)博士の研究室の論文のようです。ゴードン博士は、ゲノムシークエンシングをいち早く研究に取り入れヒト腸内細菌の分類法を開発した研究者で、コッホ賞はじめとする数々の賞を受賞しています。特に1990年以降毎年のように賞をもらってます、すごいw 1990年といったらゴードン博士は42~3歳くらいかー・・・、よし、まだ間に合うw (何が)
マラウイやベネズエラの先生と共同研究してNatureに出すくらいなんで、コミュニケーション能力も高いんだろうなあ。
この論文は、どのように解析するかしっかり見据えて大量のサンプリングを行った点を手本にしたいです。たぶん、最初からしっかり見据えていたからこそ、情報が錯綜していないし、これだけのデータ量をきれいにまとめられている。どんなデータがでても、それなりに面白い結果になように実験を組んでいるのもすごいですね~。