30 生物学的廃水処理へのメタゲノムの応用

生物が廃水を浄化するというのは比較的有名な話かと思います。

2~3年くらい前に汚れた川に「善玉菌だんご」を投げ込んだ政治家がいて、生態学者からバシバシに怒られていたのは記憶に新しいです(笑)

私たちは日常的に生物反応を利用して廃水を浄化していますが、実は生物がどのような反応を行っているのか解明されてない部分もあります。

そこで今回は廃水のメタゲノム解析に関するレビューを読んでいきます

今回の論文

【論文タイトル】Application of metagenomics to biological wastewater treatment

【著者】Chen et al.

【年】2022

【ジャーナル】Science of Total Environment

【リンク】Application of metagenomics to biological wastewater treatment – ScienceDirect

メタゲノムで分かる①:リンと窒素の生物学的除去

リンは生物にとって非常に重要な元素ですが、リンが増えすぎ富栄養化した水環境では生態系が崩れ、生物多様性が失われてしまいます。廃水にはリンが多く含まれているため、人々は昔から微生物反応により廃水からリンを除去してきました。

リン蓄積生物(=PAOs:Phosphate-accumulating organisms)はリンの除去によく使用される微生物ですが、ほかの生物との相互作用関係などが不明であったために、その効果を最大限発揮できない場合がありました。

このPAOsの理解を促進したのがメタゲノム解析でした。例えば、PAOsが具体的にどのような生物集団であるのかわかっていませんでしたが、メタゲノムデータからCandidatus AccumulibacterがPAOsの主要系統であることが明らかとなりました。また、リン循環はあらゆる環境で普遍的に存在するため、リン除去の機構も様々なニッチで多様な代謝メカニズムによって行われていることが明らかとなりました。例えば、Barr et al (Environ.Microbiol., 18 (2016), pp. 273-287) は、バイオフィルム中のタンパク質が凝集体から顆粒状になることで、リン除去を活性化する仕組みを解析しました。この研究はバイオリアクター中におけるリン除去を安定させるうえで重要な知見となりました。他にも、電子受容体によってリン除去の効率が変化することが判明しました。(好気呼吸、硝酸呼吸、微生物によって異なる呼吸鎖を有するからです)

窒素も生物にとって欠かせない元素ですが、リンと同様に増えすぎると環境に悪影響を及ぼします。メタゲノムはここでも窒素循環の新たな側面を明らかにしました。窒素循環に関わる微生物群を明らかにしたことはもちろんのこと、新たな代謝系・遺伝子群も判明しました。おもしろい例としては、下水処理場にしか存在しない細菌系統 Nitrospiraが見つかりました。Ntrospiraはアンモニア酸化と亜硝酸酸化に用いる遺伝子両方を有しており、完全な硝化反応を一細胞で完結してしまうことが明らかとなりました。

メタゲノムで分かる②:薬剤耐性遺伝子の分布・移動・除去

薬剤耐性遺伝子 (ARG: antibiotic resistance gene) は抗生物質の処方や農産業での利用によって環境に放出され、その一部は下水処理場に辿り着きます。そのため、各地の処理場におけるARGを分析することでその種類、分布、水平伝播、ひいてはARGの分解メカニズムを把握することができます。

こちらもメタゲノム解析によって、処理設備内の場所(エアレーションタンク、汚泥など)ごとに存在するARGの種類が異なることや、水平伝播が主にプラスミドやトランスポゾンによって起こることを明らかにしました。また、紫外線処理がARGの除去に一定の効果を示すことも見出しました。

メタゲノムで分かる③:微生物的レメディエーションと重金属との反応

産業の発展とともに、重金属の環境放出による生態系破壊が問題となってきました。重金属の除去のために高効率な‎‎化学沈殿‎‎、イオン交換、吸着、膜ろ過法が開発されてきましたが、微生物反応により重金属を取り除くことも可能です。一部の微生物は、代謝によって有毒な重金属価数を非毒性または低毒性値にまで減少させます。このメカニズム解明にももちろんメタゲノムが貢献しています。

例えば、Laiら(2018)はメタゲノミクスを用いて膜型バイオフィルムリアクターのバナジウム (V) 還元プロセスを研究し、細胞外高分子物質の分泌と生体代謝プロセスがV(V)還元に関連していること、TCAサイクルとEPSにおけるメタン酸化ATPの生成はV(V)によって引き起こされる酸化ストレス応答を緩和して微生物をV(V)毒性から保護することを示しました。Wangらはさらに、リアクター内の微生物V(V)の還元機構を探索し、メタゲノム解析により、メタン酸化と酢酸生成に関連する遺伝子群が増加しており、メタン酸化菌がメタン酸化により酢酸などの中間体を生成して他の微生物に電子ドナーを提供しV(V)を還元する可能性を示唆しました。

感想

廃水というと有機物も豊富に含まれているし、廃液や糞尿、河川の微生物群が混ざり合って大量の生態系が混合される場所ですよね。そんな「混ぜ物」の場所だからこそ、メタゲノムが活きる気がします。今回見たように、Nitrospinaみたいな特殊な菌が進化していたことは非常に面白いですし、ARGなどの遺伝子のモニタリングをする場としては最適ですね。

“30 生物学的廃水処理へのメタゲノムの応用” への3件の返信

  1. 初めまして。Twitterからこちらのブログに飛んできました。

    自分の専門にも関わらず,こちらのレビューは見落としていたので大変参考になりました!

    いくつか修正事項があります。
    ・Nitrospina,ではなく,Nitrospiraです。Nitrospinaは海洋性の亜硝酸酸化細菌であり,排水処理場にはいません。アンモニアも亜硝酸も酸化するNitrospiraは2015年に発表されました (https://www.nature.com/articles/nature16461)

    ・消化,ではなく,硝化です (発音が同じなので紛らわしいですよね)

    1. Goroさん、コメントありがとうございます!
      まさか見てくれている方がいらっしゃるとは思わず驚きました。

      Nitrospina→Nitrospira
      消化→硝化
      修正しておきます (^ ^ )

  2. Goroさん、コメントありがとうございます!
    まさか見てくれている方がいらっしゃるとは思わず驚きました。

    Nitrospina→Nitrospira
    消化→硝化
    修正しておきます (^ ^ )

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