34 哺乳類のがんリスク (Nature, 2022年12月)

今日はがんの論文を読んでみます。

Nature誌からで哺乳類におけるがんリスクの違いを調べた論文です。なかなか面白そう!

今回の論文

【論文タイトル】Cancer risk across mammals

【著者】Vincze et al.

【年】2022

【ジャーナル】Nature

【リンク】Cancer risk across mammals | Nature

背景と研究の目的

哺乳類の一生は1つの受精卵から始まって、そこから何万回もの細胞分裂を繰り返して数百万から数千万個の細胞へと増加し、成長してからも細胞を作り続けて身体を維持します。そんなサイクルの中でDNAの塩基配列の変異は繰り返し生じますが、大抵の変異は哺乳類にとって無害なものです。一方で、一部の変異は細胞周期のコントロール下から逃れ、制御不能な状態で成長・増殖し、いわゆる「がん細胞」になります。変異のリスクは細胞分裂の回数が多いほど大きくなるので、身体が大きく(=細胞数が多い)、寿命が長い(=変異が蓄積しやすい)哺乳類はよりがんを発症しやすいと言われています。しかし、これらはあくまでも仮説であり、妥当なデータセットで検証された例は多くはありませんでした。(先にネタバラしをすると前者は本研究で否定されました)

今回のVinczeらの論文では、幅広い哺乳類系統におけるがん発生率を特徴づけるためにSpecies360(動物園・水族館のデータを管理する非営利団体)が管理する動物園情報管理システム(ZIMS)を用いた解析を行いました。191種に分布する110,148頭の野生生物の情報を収集し、11,840頭の年齢、性別、死亡/生死の状態、死後の病理記録などのデータを収集しました。(ものすごいデータ量・・・!ヒト以外の生物のデータもこんなにあるのですね!)

本論文では主に以下の2つについて調査しました。

  • がん死亡率の系統分布
  • がん死亡リスクと身体的特徴の関連性

どの生物種でがんリスクが高い?

まず著者らは生存モデリングで種ごとの寿命を調べ(n = 110,148)、2つの指標(cancer mortality risk (CMR) とincidence of cancer mortality (ICM))を用いて、哺乳類におけるがん死亡率の系統的分布を探りました。その結果、CMR (cancer motelity risk, 発がんリスク) は種によって大きく異なり、0%(191種中47種)からコワリ(Dasyuroides byrnei)の57.14%に分かれました。そのうちCMRが10%を超えたのは41種(全調査種の21.5%)で、多くの哺乳類の死因はがんであることがわかりました。ICMはCMRと強い相関を示しました(ピアソン相関検定、r = 0.89, t = 25.14, df = 170, P < 0.0001)。

さらに、がんリスクの種間差を調べたところ、食肉動物におけるがん死亡リスクは霊長類や偶蹄目よりも有意に高いことがわ判明しました。一方、偶蹄目(牛など)は大きな体の種が多いにもかかわらず、最もがんになりにくい哺乳類目であることが示唆されました。男女性別間の差はなかったそうです。

肉食動物におけるがんリスクが高理由として、食生活が考えられました。例えば、肉食動物では発がんの危険因子として知られる高脂肪・低繊維食になる場合が多いです。また、肉食動物は食物連鎖の最上位の動物であるため、汚染物質などの発がん性化合物の生物濃縮が起こりやすいです。さらに、生肉の消費はウイルスが起因するがんにも罹りやすいでしょう。

そこでVinczeらは、種の食性とがんリスクを調べました。その結果、肉食の種は、それ以外の種と同等のがん死亡リスク(CMR・ICM)を持つことが示されました。一方で、無脊椎動物を食べる肉食種と脊椎動物を食べる肉食種に分けると、脊椎動物を食べる種のみががん死亡リスクの上昇と関連してることが明らかとなりました。特に、哺乳類を頻繁に消費する哺乳類は、がん死亡リスクが有意に高いことが示されました。魚類、爬虫類、鳥類の餌の場合には、このようながんリスクの上昇は認められませんでした。

がんリスクと身体の大きさ

著者はサンプルサイズ、体重、寿命を基に、zero-inflated phylogenetic modelsを用いてがんリスクを分析しました。82個体以上の病理記録があるほぼすべての種で、少なくとも1個体からがんが検出されました。例外はブラックバック(Antilope cervicapra)とパタゴニアンマーラ(Dolichotis patagonum)で、それぞれ196個体と213個体の死後の病理記録があるにもかかわらず、癌による死亡例ありませんでした。ほぼすべての種でがんの例が認められたことは、がんが哺乳類で普遍的な病気であることを示唆しました。また、げっ歯類以外の偶蹄目には、特にがんになりにくい動物がいることも明らかになりました。げっ歯類は、一部の種でがん罹患率が非常に低いことで知られているため天然のがん抵抗性メカニズム探索のために長い間研究されてきましたが、今回の研究ではがん死亡リスクは反芻動物で最も低いという結果が得られました。このことは、偶蹄目ががん研究において有益なモデル生物になる可能性を示唆しています。

さらに、がんリスクは体重が大きくなると減少し、寿命が長くなると増加する傾向がありました(有意差はなし)。これらの結果は、これまで細胞分裂回数が多くなることから体格の大きい動物ほどがんになりやすいとする仮説を否定するものでした。哺乳類において、寿命の延長と大きな体格は、より優れた抗がん機構と共に進化したのではないかと考えられました。

感想

分かりやすいしおもしろい内容でした。がんに関してあまり知らなかったのですが哺乳類共通の病気で、しかもそれを進化の過程で克服した種もいるんですね。すっごく面白いです。

特に肉食動物ががんになりやすく、その食性が起因しているというデータでしたが…ウイルスが生肉食を通して伝播する可能性があるなら、加熱殺菌して肉を食するヒトにはあまり関係ない話なような気もしますがその辺どうなんでしょう?魚を食べたほうが良いのでしょうか😮

(日本人が長生きをする要因の一つでもあったりして)

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