22 腸内細菌がヒトを健康にする仕組みレビュー 【その1】(GUT, 2022年2月publish)
腸内細菌と人の研究ってほとんどメカニズムがわかっていないと思っていたのですが、 先月パブリッシュされた新しいレビューで現時点で判明しているメカニズムについてまとめられていたので、読んでみたいと思います。
長いのでその7まで分けて投稿予定ですが、とても参考になる内容だったのでぜひ。
今回の論文
【論文タイトル】Gut microbiome and health: mechanistic insights
【著者】Willem M de Vos et al.
【年】2022
【ジャーナル】GUT
【リンク】Gut microbiome and health: mechanistic insights | Gut (bmj.com)
ヒトのマイクロバイオーム
どのくらいの細菌が人の中に住んでいるかというと、以下のようです。
口腔 1011-1012 cells
皮膚 1011 cells
胃 107 cells
十二指腸 107 cells
空腸 107 cells
回腸 1011 cells
大腸 1012 cells
どの部位にも少なくとも1億の細菌、多いと100兆もの細菌が住んでいるというわけです。
人の体は微生物まみれとってもいいくらいですね。
人にたくさんの微生物が住んでいると言う事もあって近年ヒトの健康と微生物の関係が注目されています。特にIBD、肥満、糖尿病と言った病気との関連性に大きな注目が集まっており、年々その研究報告数は増加しています。
さて、どのような細菌がヒトの中で住んでいるかというとどの部位によって少しずつ環境が違うので特定の違う菌が住んでいるようです。例えば酸素の分圧は、消化管の上流の方が高く下流側の方が低いと言われています。ですので消化管の最後の方にある大腸なんかには、酸素があると死んでしまうような嫌気性細菌が住んでいたりするみたいです。
さらに面白いことに、このような垂直方向のグラデーションだけでなくて水平のグラデーションもあるらしいです。腸壁側からルーメン側にかけて酸素、還元力、ムチンのグラデーションがあるので、同様に菌のグラデーションも存在しているようです。
縦のグラデーションと横のグラデーション両方が重なり合って複雑な環境が作り上げられているため、腸内には想像以上にさまざまな種類の菌が住んでいるのではないでしょうか。
腸内細菌と疾患
腸内細菌は、いくつかの腸および腸外疾患と関連しています。特に、腸管疾患(IBD)、セリアック病、 過敏性腸症候群(IBS)、大腸がん(CRC)、慢性肝疾患または膵臓疾患などの消化管(GI)疾患との関係性はかなり調べられています。
IBDは腸の炎症性疾患で、腸内細菌叢のディスバイオーシスとの関連が報告されています。特にBA、短鎖脂肪酸(SCFA)、アシルカルニチン経路などの代謝物障害があると、通性嫌気性細菌が少なくなる現象が見られているようです。
セリアック病のリスクを有する乳児における解析では、発症前にDialister invisus、Parabacteroides spp、Lachnospiraceaeなどのいくつかの微生物種やトリプトファン代謝物などの特定の代謝物の存在が増加する一方で、Faecalibacterium prausnitziiやClostridium clostridioformeなどのさまざまな抗炎症性菌株が減少していたことが報告されています。
下部消化管に最も多く見られる悪性腫瘍であるCRCは、腸内細菌群の障害と強い相関があり、Fusobacterium nucleatum、Escherichia coli、Bacteroides fragilisなどの特定の細菌(一部は口腔内細菌群に由来する)が関与していたそうです。
慢性肝疾患、特に肝硬変などの進行性肝疾患では、深刻な微生物異常が確認されています。プレバイオティクス、プロバイオティクス、抗生物質を用いた介入研究のデータから、腸内マイクロバイオームがこれらの疾患において重要な役割を果たすことが示されています。
腸内細菌は、2型糖尿病(T2D)や非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)などの肥満および肥満関連疾患においても研究されてきました。T2Dでは、微生物の変動とインスリン抵抗性の有無との間で強い相関が認められており、いくつかの研究は腸内細菌がグルコース調節に影響を与えることを示唆しています。NAFLDは現在欧米で最も多い慢性肝臓病で、肥満、代謝症候群、T2Dの境界にある代謝障害とみなされています。現在、いくつかの研究により、NAFLDでは、特定の腸内細菌、大腸菌の増加、F. prausnitziiの減少が起こることが報告されています。最近のデータでは、NAFLD患者ではマイクロバイオームのディスバイオーシスや不安定性が長年にわたって存在し、NAFLDやT2Dの発症に先行する可能性も示唆されています。
このように腸内細菌はさまざまな疾患との関連が報告されており、ますます研究報告は増加しています。
その2:短鎖脂肪酸 (SCFA) につづきます・・・
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